みけまねブログ
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「憶えている」岡田林太郎 

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40代で死に直面した男性の日記

ある日、TVを見ていた。
そこで紹介されていたのが、岡田林太郎さんだ。
彼は、一人書店を言葉通り一人で始め、
数冊の本を出版している。

奥さんとの二人暮らし、社業も頑張っていた矢先ステージ4の悪性腫瘍が見つかった。
彼の日々の様子がTVに映し出されていた。

そしてすでに、他界していた。

この番組で、新しく彼自身が書いた本が出版されることを知った。

私は、彼を知って以降、本を読んでみたいと考えていた。
そして今、私の手元にその本がある。
この本は書店を立ち上げるところから始まり、
彼が他界するまで書き記した文章で埋められている。

ブログに書きためた記事を、闘病中の本人が加筆したものだ。

読む前は
「重いかも・・」と思ってた。
しかし、読み始めてみると
文章から岡田林太郎の性格伝わってくる。

彼はきっと優しくて、
細やかで、
きちんとしている性格。
頭が良くて、
文章力がある。

私は心を揺さぶられる文章を読むと
自分も文章を書きたくなる性分みたいだ。
そう、だからこうして
ブログに向かっている。

心が震えた岡田林太郎の文章を書いていこうと思う。

病気の告知

病気がわかって以来、このことを公表すべきか、いささか迷いました。
でも、僕としては、この先の時間を分かち合うひとたちには、知っていて欲しいと願うようになりました。

・・・略

もしかしたら僕は、親しい方々に打ち明けることで、自分の恐怖や不安を紛らわそうとしているだけなのかもしれません。
 でもやはり、知り合って関係を結び、これからもその関係を続けていきたいと願っている人たちには、僕が今どんなことを考え、これから先どういうふうに生きていくことになるのか、知っておいて欲しいのです。

厳しい病に冒されていることを知った、岡田さんの言葉である。
同じ状況に置かれれば、おそらく多くの人は同じように感じるのではなかろうか。
そこには、人の目を気にする、かっこつけるとかいう健常者にありがちな心の余裕はない。
自分の命と周りの人々との関わりと、
それらのこれからの未来を、
一人じっと見つめている理性の目がある。

希望は常にある。
でも、
なにを、感じればいいのかわからない。
悲しいわけでも、苦しいわけでもないし、冷たくも熱くもない。
ただ空疎というか、無に近い。
何も感じたくない。
何かを感じるのが怖くて、無意識に感じたり考えたりすることを避けているような感じ。

自分の感情以外のもので空疎さを埋めたくて、何でもいいから無のなかに詰め込んでしまいたくて、ひたすら長い小説を読んでいる。

告知を受けた直前の文章だ。
ただ、「わかる」と感じた。
(他人にわかると思わせる文章力が素晴らしい。流石、文字を使うお仕事されてるだけのことはある!)
わかると言っても、多分こんな状況になるよねと想像するくらいが精一杯であるが。

命の長さ

進行が早い病気だったようだ。
それでも、調子のいいときには「もしかしたら、死なないんじゃないか?」と思ったそう。
ただ、この病気はガクンと悪くなるらしいから
油断できないと兜の緒を締める岡田さん。
用心深い緻密さが窺われる。

 あれもしかたかった、これもできればよかった、と思うことがいくつかあります。
 でも残念ながら、時間や体力など様々な要因で、もう諦めないといけないことです。
 それをいつまでも、したかった、できればよかったと思い続けるのはしんどい。だから、そういうことについてはなるべく考えないようにします。考えても仕方がないことでもありますし、
未練というのは、なかなか苦しくやるせない感情です。

だから、あれもできる、これもできる、というのは本当に素晴らしいことだと実感しています。
 普通に仕事ができて、酒飲んでご飯が食べられるなんて、最高の人生だよ。
 いま、まともに仕事ができなくなり、酒はいうまでもなく、食事も全く摂れなくなって、実感されます。
 なにも特別なことがきなくてもかまわない。
 何でもないことができなくなっていって、そのことを未練に感じるのは、なかなかにしんどい。
 このところ、未練の泥沼に捉えられそうになることがいくつか続きました。
 だから繰り返しますが、普通に仕事ができて、酒飲んでごはんが食べられたら、最高の人生だよ。

岡田さんは、料理が好きだったみたい。
お酒も好きだったみたい。
自分が作った料理を奥さんとお酒を飲みながら食べる事が好きだったんだ。
だから、料理が作れない、
食べれない、
酒が飲めない、
そして仕事ができない。
辛かったろうに。

「普通に仕事ができて、酒飲んで、ごはんが食べられたら、最高の人生だよ。」
そうですね、岡田さん。
私は今、最高の人生を生きてます。
改めてそう感じた。

人間は自分がどれだけ恵まれているのかを、
どうしたわけだか気がつけないみたいだ。
失って初めて気がつく・・・これだけは避けたい。

だから、岡田さんの本を読んだのかもしれない。

この本は単なる闘病記ではなく、
岡田林太郎が共感した本も多く登場してくるため、期せずして多くの本を知ることができる。
「憶えている」を読まなければ、
出会うことのなかった本たち。

これから数冊読んでみるつもりだ。

岡田林太郎が出版した本たち、
岡田林太郎が読み直した本たち、
どれも素敵な本たちに違いない。

楽しみをありがとう。
そして本を出版してくれてありがとう。
岡田さん、生きていてくれてありがとう。